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旧上田市立図書館 [長野県]

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このところ、上野にある「国立西洋美術館」が世界遺産に登録されるというニュースで餅切りである。

いや、持ち切りである。(笑)

「国立西洋美術館」は、言わずと知れた世界的建築家「ル・コルビュジェ」の設計で、日本では唯一の作品にあたるのだが、これは意外と言わないと知らない事実である。

しかも、言わないと知らない事実は他にもあって、ル・コルビュジェが設計したといってもごく簡単な基本設計図とスケッチだけで、これだけで実際の建物を設計するには至難の業。      

そして、その至難の技をやってのけたのがコルビュジェの弟子である日本人建築家、坂倉準三・前川國男・吉阪隆正の三氏であるわけだ。 

  ⁂ 

彼らはほとんど寸法も書かれていない基本設計図やスケッチから実施設計図を起こし、見事完成にこぎつけた。(すごいでしょう!)

その間、コルビュジェ先生は1回しか来日していない。

ただし、コルビュジェは美術館の他に、音楽ホールや展示用パビリオンなども含んだ周辺敷地全体の計画を提案していた。

まあ、予算の関係(?)でほかの施設はお流れとなったが、後にすぐ向かいに前川國男の設計で、東京文化会館が建てられている。

さすが、前川國男である!(宗男の大好きな先生です)

上野公園の入り口は、国立西洋美術館よりも、弟子の設計した東京文化会館の方が数段ダイナミックに仕上がっている。

ちなみにコルビュジェの弟子といっても、彼らのアトリエ在籍期間は、坂倉が8年、前川が2年、吉阪が2年しか在籍していない。

これも、言わないと知らない事実である。(笑)

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さて、ここからが本題である。

この建物も言わないと知らない名建築の一つである。

信州上田城のすぐ近くに建つ『旧上田市立図書館』である。

勿論、コルビュジェ先生の設計ではない。

設計者も施工者も不詳であるが、建築年は大正4年(1915年)と記録がある。

しかし、ル・コルビュジェと全く縁がないわけでもないのだ。

……と、ちょっと思わせぶりに書き添えてみる。(笑)

『旧上田市立図書館』(明治記念館)

竣工:大正4年(1915年)

設計者・施工者:未詳 

構造:木造2階建て

場所:長野県上田市大手2丁目

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この建物は、大正2年に上田男子小学校同窓会が一般市民の寄付を集めて、大正15年に「明治記念館」として建てられた。

……と看板に書いてあった。

元々図書館の機能が備えてあったところから、大正12年に上田市へ寄付され昭和45年まで市立図書館として利用されていたのだとも。

その後、いろいろな用途としてコンバージョンされてきたが、書くのが面倒なので割愛する。

そうなんですよ。

最近、何事にも面倒になって、まだ梅雨が明けないけれどもうすでに夏バテです。

去年宗男が行った時には「蚕都上田館」と看板が掲げられていたが、中はひっそりとカーテンに閉ざされていて、まったく人の気配がしなかった。

信州上田市と言ったらNHKの大河ドラマ「真田丸」ゆかりの地であるだけに、今年はさぞかし「じぇじぇじぇ」の活気を見せているだろう。

……ん?

少し、番組が違ったかな?(笑)

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それでこの建物、何が凄いのかと言うとその意匠(いしょう)が凄いのである。

いや、真田幸村の衣装のことではない。

勿論、小林幸子の衣装のことでもない。

更に、美川憲一の衣装のことでもない。

建築における意匠とは、まあ平たく言えばデザイン性のこと。(注:平たく言い過ぎてますので、お友達に伝えるときはよく噛んでお話しください。)

なんと、信州一の味噌ならぬ、信州唯一の「セセッション・スタイル」なのだから!

「セセッション」とは、宗男が学生の頃は「ゼツェシォン」と習ったものだが、最近の建築学科の学生達に発音してみると大いに笑われた。

「ゼツェション」などの表記もあり、何度言ってもうまく発音できないので、ここでは「セセッション」という事にする。

そういえば、最近よくTVのニュースで耳にする「ル・コルビュジエ」も、アナウンサーが言いずらそうに「コ・ル・ ビュ・ ジ・ エ」と一語ずつ正確に発音している。

建築関連の専門家は「コルビュジェ」と流暢に発音している人が多い。

なんとも「コ・ル・ ビュ・ ジ・ エ」と正確に発音されると、「ジビエ料理」を連想してうまくない。

ちなみに「ル・コルビュジェ」という名前は変な名前で、人名なのに「ル(le)」という監視がついている。いや、冠詞がついている。(笑) 

彼の本名は「シャルル・エドゥアール・ジャンヌレ」というらしいが(本で調べました)、ベルギーに居た祖先の一人に「ルコルベジェ」という人物がいて、それをもじって「ル・コルビュジエ」というペンネームを創作したらしい。

コルビュジェは、1920年(33歳ころ)に雑誌「エスプリ・ヌーボー」を創刊しており、それ以降はル・コルビュジェのペンネームを使っている。

沢山ペンネームを使って、多くの作家が参加している風を装ってのこと。

今も昔も変わらない。

これも言わないと知らない事柄の一つですね。(笑)

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さて「セセッション」であるが、建築の分野ではオルブリッヒの設計した「セセッション館」が超有名である。

「ウィーン分離派」ともいわれ、ウインナーコーヒがクリームとコーヒーに分離したことが名前の由来とされる。(嘘ですよ)

……本当はクリームではなく、画家のクリムトが当時の権威のある芸術家団体から脱退して「分離派」を作ったという事から始まるわけです。(笑)

明治30年(1897年)のこと。

ところか時間が経つにつれ、クリームがコーヒーになじんで、今度はクリムト自身が脱退するのですが、その時一緒に脱退したのがオット―・ワグナーだったのです。

オットー・ワグナーは専門家の間ではコルビュジェ先生よりも超有名な先生で、19世紀末を石鹸した、いや席巻(せっけん)したアール・ヌーボーの大家でございます。

ちなみにアール・ヌーボーとは19世紀末のフランス・イギリスなどで流行した流行り病、いや芸術運動で、古い本では「新芸術」(アール=芸術、ヌーボー=新)と訳されます。

宗男は小池百合子や鳥越俊太郎や増田何とかよりも、ぜひとも1票を投じたい黒川紀章先生……

いや、これもすでに鬼籍に入ってしまいましたね。(笑)

その「セセッション」で名を馳せたオルブリッヒの弟子筋にペーター・ベーレンスという、これまた有名な建築家がいるんです。

ペーターといっても、アルプスの少女ハイジには出てきません。

ペーター・ベーレンスは、工場建築に初めて美をもたらしたという画期的な建築家なのです。

そのオルブリッヒがメインとなって(1901年ころから徐々に)、西ドイツの「ダルムシュタット」という所へ「芸術家村」という村を展開します。

画家であったペーター・ベーレンスはここで建築家デビューする。

しかし、ここでもまだハイジは出てきません。(笑) 

ただ、この村に建つ建物のほとんどが素晴らしいユーゲント・シュティール(「幽玄としている」と覚えてください)や、セセッション・スタイルなのです。

……それもそのはず、ほとんどの建物をオルブリッヒが設計しているのだから。

ユーゲント・シュティール(古い本では「青春様式」と訳されます)とは、平たく言えばドイツでのアール・ヌーボーのこと。(注:平たく言い過ぎてますので、お友達に伝えるときはよく噛んでお話しください。)

セセッションと幽玄としている、いやユーゲント・シュティールのデザイン性の違いは「コーヒー好きの違いの分かる男(いや女でも)」でなければよく分からない。←この話題は古くて、ついて行けない人は飛ばして読んでください。(笑)

そもそも、建築様式はその発生した時期や地域、グループ、イデオロギーなどによって命名され、後から命名されることも多い。

例えば「ゴシック様式」(ゴート族のような野蛮なもの)に従事する建築家たちは、「俺たちは野蛮なものたちだ」とは思っていなかったはずだ。(笑)

したがって一人の建築家が生涯同じ様式に留まっていることはまれで、多くは小池百合子氏のように政界渡り鳥なのである。

宗男はやはりオルブリッヒはセセッションだなぁ~つくづくと思うのだ。

  ⁂

下が「芸術家村」に建つベーレンス先生の自邸↓です。

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 (「建築20世紀part1」新建築1991年1月臨時増刊号より転載)

そして、同じく「芸術家村」に建つオルブリッヒ設計の「グリュッケルト邸」です。↓

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 (「建築20世紀part1」新建築1991年1月臨時増刊号より転載)

如何でしょう。

トップページにUPした「旧上田市立図書館」にそっくりでしょう。(笑)

まったく本場のセセッションに引けを取らない、素晴らしい意匠です。

えっ? 似ていないですか? 

そんなことはありません。

宗男は、確かにこの目で確認しました。

設計者不詳ですが、もしかするとオルブリッヒが忍びで日本へ来て設計していたのかもしれませんね。(笑)

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ファサード(正面)の変な形をしたパラペットなどは、いかにもオルブリッヒを髣髴するものである。

そして、随所にみられるメダイヨンは、オットー・ワグナーさながらの出来栄えです。

いや、「さながら」と申しましたが、そのような柄があるわけではございません。それほどまでに出来がいいと言ってるのです。(笑)

ただし、近寄ってみるとこれは安いトタン板をエンボス加工をして、その上にペンキを塗っているようです。(安いトタンかどうかは、値札がついてなかったので確認できませんでしたが)

これでは雨にぬれ錆付いてしまいますので、メンテナンスに注意しなければいけませんね。

今のところ、下見板も「いい加減」でメンテナンスが行き届いている感じです。(笑)

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玄関にあるランプ掛けは、ちょっと和風でこれもなかなかいい感じです。

天井は漆喰を塗れたので、コテ絵になっているのでしょう。

本物志向である。

外壁の下見板がボーダーで区画され、垂直性を強調しているのも本格的である。

パラペットにある卵型のまっ平らな白い紋章は何でしょう? 

昔は何か違うものがついていたのか? 

それとも養蚕の繭玉を象ったものでしょうか? 

謎めいているところもいいですね。(笑)

グリュッケルト邸もベーレンス邸もその竣工が明治34年(1901年)であることを考えれば、僅か十数年の間に信州上田市にセセッションを導入したという事実は見逃せない。

なんとも、じぇじぇじぇである。(笑)

上田市の指定文化財に登録されているものの、ひょっとして世界遺産に登録される日が来るかもしれません。

裏方はこんな感じです。

マンサード屋根もちゃんと見えます。

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そうそう、若き日のコルビュジェは、シャルル・エドゥアールの名前でペーター・ベーレンスの事務所に短期間ですが厄介になっております。

つまりベーレンスの弟子筋ということ。

これも、言わないと知らない事実でしたね。

そういう意味で、この建物も今回の世界遺産にまったく縁がないでもないのです。(笑)




 

PS

皆様、お久しぶりでございます。

ベッキーがインスタを再開したようなので、宗男もブログを再開します。

どうぞ、よろしくお願いいたします。(ぺこり)


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カンパネルラ

違いがわかる男がわかる男カンパネルラです。お久しぶりです。
コーヒーからの、違いがわかる男への下りが素晴らしいです。

ここは数年前、確か大河ドラマを誘致していた頃だったかに行って見てるはうなんですが・・・・ あまり記憶にありません。そんな大そうな建築物だとは知りませんでした。
すぐ近くに、これによく似た物件がもうひとつあった気がします。
どっちも、ちょっとほっとかれてる感じがしました。教育委員会の持ち物だったかな~?

いずれにしろ師匠の懇切丁寧な説明で、なんとなくわかりました。
素人なので、あくまでなんとなくです。

私はゼセッションって覚えていたんですが、多分師匠の影響なんでしょうね。
by カンパネルラ (2016-07-25 11:56) 

あおい君と佐藤君と宗男議員

>カンパネルラさま
違いが分かっていただいて、光栄です。(笑)
ほんとにお久しぶりですね。
それにしてもカンパネルラさんは、いろいろと沢山出歩いておりますね~。敬服いたします。

いやいや、それほど大そうな建物ではないんですが、宗男が大好きというだけです。
宗男も専門家ではありませんが、最近、TVでやたらと専門家という職業の人が出てきて、専門以外のコメントを述べているような気がして。……(笑)

セセッションでも、ゼセッションでも、ゼツッシオンでも、本場の人が聞いたら噴き出すんでしょうね。
ぜひとも専門家の発音を聞いてみたいです。(笑)


by あおい君と佐藤君と宗男議員 (2016-07-26 12:52) 

八犬伝

おおっ、宗男議員。
生きておったか
良かった、何よりだ(^^)/
by 八犬伝 (2016-07-29 21:01) 

あおい君と佐藤君と宗男議員

>八犬伝さま
ありがとうございます。
宗男は、生きておりました。(笑)
折を見て、覗きにまいります。


by あおい君と佐藤君と宗男議員 (2016-07-30 05:10) 

高穂

おひさしぶりでありますぅー
ジブリアニメに出て来そうな図書館.
林家カラーは建てられた時からの物なのでしょうかっ.
良い加減に廃墟臭が有る物も.好きでございます.

ちなみに西洋美術館は国際博物館の日に行って来ましたー
…この日は常設タダだから…
人出は遺産決定前だからか三割増ぐらいな感じで
混んではいませんでした…タダなのに…
てか先の若冲展の方では80分並びました.死ぬかと思いました.
連休後は3時間待ちとかザラだったみたいです.
係員も水を配ったりと大変そうでした.
常軌を逸した込み具合とはいえ,
都美術館改装は待機列への配慮までは無かったようでございます.
以上.専門外がお伝えしましたプンスカ==3
by 高穂 (2016-08-01 14:02) 

あおい君と佐藤君と宗男議員

>高穂さま
お久しぶりでございます。
林家カラー、爆笑でございます。(笑)
どうなんでしょうか?
この手の建物はパステルカラーを使用するケースが多く、淡いピンク、淡いグリーン、淡谷のりこ、いや淡いブルーなど。
元から林家カラーだった可能性は高いですが、「こすりだし」という方法で調べてみることが可能です。
でも、人の家なので「専門家」でも、勝手にやると怒られますが。(笑)

「国際博物館の日」なんてのがあるんですね。
「イルカの日」という映画なら知ってますけど。(笑)
登録後は、数倍の人出だと聞いております。
若冲は敬遠しましたが、しばらく世界遺産特需が続くのでしょうね。

by あおい君と佐藤君と宗男議員 (2016-08-01 22:46) 

opas10

いや~コルビジュエと3人の日本人の弟子の話までは想像できたのですが、そこからクリムト、ワグナーにベーレンス、オマケに黒川紀章や小林幸子までの展開は読めませんでした(笑)、さすが宗男節建材ならぬ健在ですね!
by opas10 (2016-08-22 21:56) 

(な ̄▽ ̄お)

祝!国立西洋美術館世界文化遺産登録
祝!建築日誌復活!!
嬉しい限りでございます!
そういえば、パリの博物館でル・コルビュジェの
展示場所を尋ねたとき発音に苦労いたしました
ギリ通じました(笑)
ゼツェシオンとか発音難しいデスネ
by (な ̄▽ ̄お) (2016-09-10 03:23) 

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